私たちの研究が目指すもの
私たちの言葉はどんな構造をしていて、
私たちはそれをどのように獲得していくのだろうか?
本事業では、これまでの「実験語用論」に係る研究成果をもとに、「言語」と「思考(thought)」の関係に基づく、革新的な第一言語獲得モデル構築を目指すヨーロッパ研究拠点の「LeibnizDream: Child Languages as a Mirror of the Mind」プロジェクトと連携しつつ、第二言語、第三言語における実験語用論的側面の発達過程を解明することを通して「言語」の本質に迫り、最終的に「言語」と「思考」を結ぶ、新たな「言語理論」構築を目指します。この試みから、ヨーロッパ研究拠点とともに「言語学」の研究拠点を形成することを目的とします。
プロジェクトリーダー
からの挨拶
大阪大学 言語文化研究科 宮本陽一
コロナ禍、私たちは日々、対面におけるコミュニケーションがどれほど遠隔システムにおけるコミュニケーションと異なるかを実感するところです。新型コロナウイルス感染症の感染拡大は、私たちがいままで見過ごしてきたコミュニケーションの「真の姿」を問う機会を与えてくれました。
本事業では、この問いを念頭に、第一線で活躍する国内外の言語学者が集い、国際共同研究を遂行することから、「言語」と「思考」の関係の解明に取り組みます。最終的に本事業をとおして、人文学における基礎研究から得られた知見がいかにSociety 5.0に続く社会技術発展に貢献しえるかを示していければと思います。また、SDGsの「4 Quality Education(質の高い教育をみんなに)」を意識しつつ、大阪大学の人文社会系部局が中心になって, 自然科学系の研究者と連携を図りながら, グローバル化社会を担う, 第二言語(英語)のみならず第三言語 (第二外国語)によるコミュニケーション能力を有する人材育成の基盤を築いていきたいと思います。
理論班
これまでの言語研究により、私達の言語には日常生活の中で様々な表現を習う(覚える)という側面に加えて、生まれた時にはすでに備わっていると考えられる特性が数多くあることがわかってきています。このような人間言語の生物学的な特性とは一体どのようなものなのでしょうか?理論班では、統語、意味、音韻、語用、といった理論言語学の諸分野における最先端の知見を結集し、さらに第一言語獲得班、第二言語・第三言語獲得班と緊密に連携を取りながら、人間言語の生物学的基盤の解明に寄与する研究を行っています。
第一言語獲得班
子どもの母語獲得においては、生後に取り込まれる言語経験のみではなく、人間に生まれつき備わっている母語獲得のための仕組みが重要な役割を果たしていると考えられています。第一言語獲得班では、日本語・英語・ドイツ語などを対象として子どもの母語獲得過程を調査し、生得的な仕組みと言語経験とが織りなす興味深い発達過程を明らかにすることを目指しています。具体的には、移動現象・省略現象・焦点化詞・論理語などの獲得を研究対象としています。
第二言語・第三
言語獲得班
子どもが母語を獲得する際は、通常、無意識のうちに苦労することなく誰もが母語を獲得します。一方、母語以外の言語(第二言語や第三言語)を大人になってから獲得する際は、意識的に且つ労力と時間をかけて学習するにもかかわらず、母語話者のように言語を操れるようになることは非常に稀です。この事実は、第二・第三言語獲得は母語獲得とは全く異なるメカニズムが関わっていることを示しているのでしょうか。あるいは、第二・第三言語獲得にも、母語獲得と同様に生得的な仕組みが関わっている領域があるのでしょうか。第二・第三言語獲得班では、日本語・英語・ドイツ語などを第二・第三言語とする学習者がどのように対象言語の文法知識を獲得し、その知識を使用して文を処理するのかを検証することによって、第二・第三言語獲得の認知的メカニズムを明らかにすることを目指します。具体的には、移動現象・省略現象・疑問文などをどのように獲得・処理するのかを、真偽値判断課題や視線計測などの様々な手法を用いて調査しています。